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事業再構築補助金の事業計画づくり①

事業再構築補助金の事業計画づくり①

令和3年3月26日、やっと事業再構築補助金の公募要領が発表されました。計4回公募があるようで、初回は4月15日から30日の間です。 Jグランツによる電子申請のためのGビズIDプライム取得には印鑑証明書を付けて郵送し、今は審査に4週間以上掛かっているようです。 このGビズIDプライムは、今後他の補助金申請にも使えるのでこの機会に取得しておいた方が良いのでしょうが、間に合わない方が続出でしょう。ところが、初回公募だけは暫定IDで申請できるそうで良かったですね。

本補助金の概要(さまざまな枠、補助額、補助率など)は公募要領を読めば分かりますが、実際に事業計画をどうやって作るべきか私見を述べさせて頂きます。 私自身、今月は8件くらい作成しなければならないので、自分の頭の整理のために2回に分けてブログを書いてみます。

 

1.本補助金の目的

まず、本補助金の目的をよ~く確かめてから事業計画の検討が必須です。

その目的は、「コロナ禍の中で苦しんでいる事業者が、ポストコロナ・ウイズコロナ時代の経済社会変化に対応するために、思い切った事業再構築を支援する」。今まで通りの事業を継続するより「思い切った」ことを後押しする補助金で、その「事業再構築」(いわゆるリストラクチャリングですね)とは何かというと、(A)新分野展開、(B)事業転換、(C)業種転換、(D)業態転換、(E)事業再編の5種類に定義されています。 この中のどれからの事業再構築に当てはまらないと補助金の対象にならないということです。

 

2.事業再構築の定義

「事業再構築」の定義を理解して、どの事業再構築パターンなのかを意識して事業計画を組み立てる必要があります。 しかし、この定義がわかりにくく、公募要領発表前の3月17日付の「事業再構築指針」を読んでも頭に入ってきませんので、指針とは少し違う表現を使って簡単な表を作ってみました。

4月10日追記:どのパターンの事業再構築に相当するのか、事務局へ問い合わせがたぶん殺到しているでしょう。昨日9日、活用イメージ(ここをクリック)のページ数を増え掲載されました。こんなパターンが一年程度の間でできるのかと疑問を持つもの、新分野展開と事業転換のどちらにも当たる例など、やっぱりわかりにくいです。 「思い切った」度合いは(E)は別格として、(A)から(D)の中で優先度が付けられているのではないかと想像してしまいます。(事務局は優先順位無しとしか言いませんが)

 

主な業種・主な事業とは

「主な」は複数の「業種」または「事業」を行っている事業者にとって売上最大の「業種」または「事業」という意味でしょう。 何が「業種」または「事業」というと、総務省が定めている日本標準産業分類でチェックすることが必要です。大分類の産業(A~T)=「業種」、中分類(1~99)・小分類(10~999)・細分類(100~999)の産業=「事業」と捉えます。

この日本標準産業分類は「その他」や「他に分類されない」という表示が多く判別しにくいものです。そもそも社会変化が激しい中で、総務省は数年毎に見直しているようですが、世の中の複雑な事業=経済活動を分けることに難しさがあるのでしょう。「変更する」要件では、明らかに別の番号のものにしなければならないということを意味します。(ただし、中華料理店とラーメン店のように同じ種類の飲食店なのに細分類番号が違うケースもあり)  この日本産業分類はCSVでダウンロードできますが大きな表なのでそのままでは使いにくいと思います。 色分けやグループ化して比較的判別しやすいExcelシートを作ったので、メールでご要望があれば差し上げます。

法人の場合は、定款記載の事業目的の範囲に限定する、または定款変更をしなければならないケースが出てくるでしょう。

 

製品等の新規性要件とは

製品等の新規性はどの事業再構築パターンでも求められる必須要件です。 既存製品の増産やコスト削減に繋がることは対象外。新規性と言っても日本や世界でまったく初めての製品を求めている訳ではありません。「製品等」の等にはサービスも含みますが、①過去に製造等(サービス提供)した実績がない、②主要設備の変更が伴う、③競合他社の多くが既に製造等(サービス提供)していない、④(計測できる場合)既存製品等と比べて定量的に性能又は効能が異なる、の4つの条件をすべて満たさなければなりません。 ①は自社にとって初めてという意味ですが、過去のテストマーケティングや再チャレンジもダメなのか、事務局に尋ねても答えは返ってきません。③は曖昧な条件だから事業計画中の表現次第でしょうが、②は物理的な設備です。既存設備でも製造できる製品はだめということになっていますが、ものづくりをする上では「応用」「利用」は当たり前であり、この要件には違和感を感じます。無駄になるかも知れない設備導入を後押ししないか心配です。ITサービスやプログラムの開発の場合は、新たな設備が存在しないケースもあり得ます。 結局、この製品等の新規性要件は書き方次第、他の申請と比べて新規性が相対的に高いかどうかという審査裁量の範囲のようです。

 

ターゲット市場の新規性要件とは

一般に市場の新規性とは、顧客層の地域、年齢、男女など新しいターゲットを意味しますが、この補助金は、①既存製品等の代替性が低いこと、②顧客層が異なることになっています。 ②の顧客層は任意要件なので、①の代替性の低さに重きを置いています。 新製品等を販売した結果、既存製品等の売上が大幅に減少しないこと、むしろ相乗効果によて既存製品等の売上が増大することになっています。 経営学の先生方は相乗効果という言葉が大好きなのでしょうが、限られた経営資源の中では、簡単なことではありません。

一般に経営学を学んだ人は、新商品x新市場と聞けばアンゾフの多角化戦略を思い浮かべると思いますが、本補助金では単純に多角化を求めているわけでは無さそうです。 そもそも、経営資源の少ない中小企業に対し、経産省が多角化しろ、対面型事業を止めろとは言わないでしょう。新商品開発と新市場開拓を同時に求められる多角化戦略はリスクが大き過ぎ、無理やり多角化を表現してしまうと、実現性が低い事業計画と評価される可能性があるでしょう。意味合いとしては関連型多角化、水平型多角化、垂直型多角化のどれかを意識し、必ず相乗効果(シナジー)を期待するオチにすることが妥当だと思います。

 

新規事業の売上高構成比要件とは

本補助金は3~5年間の簡単な損益計算書を作成することが前提(これは経営革新計画とまったく同じ)です。簡単とは、売上高、売上原価、販管費(役員報酬、人件費、減価償却費など)、営業利益、営業外収益・費用、経常利益が計算されていれば良く、細かい販管費(光熱費、旅費、雑費などいろいろ)や税金の計算が必要な訳ではありません。 その計画の最終年の売上高に占める新規事業の割合が10%以上なのか、最大の構成比になるかという要件です。数年後の数字は如何様にも作れますが、もし採択されると数年間、フォローされることも意識して数字づくりをすべきです。

付加価値額と同様に、そのようにシミュレーションする数字を置くことは簡単ですが、その数字の根拠、実現性、合理性が必要なのでしょう。(目標に到達しなくても補助金返せとはならないでしょうが、できもしない数字・やる気もない数字だと、仕事がつまらなくなります)

 

3.(A)新分野展開

この事業再構築パターンが一番多くなると予想します。基本的には既存事業と同種類の事業の範囲で、新しい製品等を開発し、既存事業との間に相乗効果が生まれるストーリーです。 新製品等によって新しい顧客を獲得し客数を上げる、既存製品等と合わせた客単価を上げることによって売上が増大するという感じです。 実際は安直にできるケースもあると思いますが、「思い切った」という表現を用い、新事業の難しさ、既存製品との相乗効果、可能性の高さを表現することが肝要でしょう。

 

4.(B)事業転換

一言でいうと、「主たる業種を変更せず、主たる事業を変更する」で、商品ラインを広げることが多いでしょうが、既存製品と近過ぎると「思い切った」感が薄れることに注意が必要です。また、カニバリゼーション(既存製品との共喰い)が起こらないこと、起こる可能性が低いことを意識して表現した方が良さそうです。

 

5.(C)業種転換

農業・漁業、製造業、建設業、小売・卸売、情報通信業、宿泊業・飲食業、生活関連サービスのような20種類しかない大分類の中の変更ですから、この業種転換はかなり「思い切った」ポイントは付くと思います。 尚、小売と卸売や、宿泊業と飲食業は同じ大分類の中なので、本補助金の業種転換には当たらないことになります。こんな大幅な転換なので、製品等の新規性や市場の新規性は当然に該当するものと考えます。

 

6.(D)業態転換

わかりにくいのがこの業態転換で、「製品等の製造方法等を相当程度変更」することらしいです。なんのこっちゃ?ですね。 「製品等の新規性」と同じ表現である「①過去に製造等(サービス提供)した実績がない、②主要設備の変更、③競合他社の多くが既に製造等(サービス提供)していない、④(計測できる場合)既存製品等と比べて定量的に性能又は効能が異なる」に繋がる製品などの製造方法を導入した場合と定義されています。 この業態転換で申請する意味がわかりませんが、「既存設備の撤去や既存店舗の縮小等を伴う」「非対面化等に資するデジタル技術の活用」を伴うものが、この業態転換枠で申請できるようです。 ただし、製品等の提供方法を変更する場合に限られ、汎用性のあるデジタル技術はだめで、カスタマイズ・改良したなどの工夫が必要とのこと。 読めば読むほど、どんなケースを想定しているのか混乱します。

4月10日追記:活用パターンは以下の4つの例があり、やはり新分野展開との違いがわかりません。

・アパレルショップ(小売業)が、ECサイトや注文管理システムを導入し、ネット販売を新たに開始

・飲食店が、店舗の一部縮小し、非対面型の注文システム導入し、テイクアウト販売を新たに開始

・イベント運営会社が、オンラインシステム導入しバーチャル化を新たに開始

・美容室が、店舗を縮小し高齢者向け訪問美容サービスを新たに開始

 

 

7.(E)事業再編

会社法上の組織再編行為と、これまたわかりにくい表現がされています。要は、吸収合併、新設合併、吸収分割、新設分割、株式交換、株式移転、事業譲渡のどれかを行うことです。 そして、この組織再編行為によって、新分野展開、事業転換、業種転換、業態転換のいずれかを行うことが要件です。回りくどいことですが、組織再編=「思い切った」と評価され加点されるのだと思います。

 

8.備考

私が補助事業計画作成の委託を受けると、クライアントから財務データや商売に関する情報をできるだけ入手し、補助事業の考えをお聞きし、どの事業再構築パターンに当てはまるか考え助言しながら、ざっくりと事業計画を書き上げると手法です。おまけで財務分析もさせて頂きます。

それでは、もう少し実務的な事業計画づくり②を次のブログで書きます。