知的財産権制度とは、人の幅広い知的創造活動によって生み出された成果について、創作した人の財産として一定期間の権利保護を与える制度です。
知的財産という言葉をよく聞くようになったのは、2002年小泉内閣の「知財立国宣言」、2015年に内閣府に知的財産戦略本部を設置されたこと、所謂、国策として重点が置かれたことが契機になったのでしょう。それ以前も、早口言葉として実在はしない「東京特許許可局」で「特許」という言葉、音楽や小説の著作権という言葉に慣れていたと思います。
知的財産権の代表である「特許権」、即ち「発明」については、エジソンの電球、ベルの電話に関する出願競争、日本では青色ダイオードの職務発明に関する訴訟などを思い浮かべる方が多いでしょう。
プラザ合意やバブル崩壊後の平成時代は、「海外生産へのシフトと日本の空洞化」、「新興工業国の台頭」、「世界の工場、中国」となり、日本企業の存在感が薄れてしまったように映ります。たとえば、エレクトロニクス産業の中のテレビでは、20世紀中盤の黎明期は、米国企業がブラウン管テレビ、テレビ放送、真空管などの電子部品などを発明し知的財産権の塊でした。その後、日本の家電メーカーが技術を輸入し、大量生産によるコストダウンと品質の改善により世界市場を席巻しましたが、意外にその期間は短命だった気がします。多くの日本のテレビメーカーは1980年代頃より次世代のテレビ技術であるプラズマ、液晶などの表示装置とその関連技術に対し、巨額の開発費と時間をかけ、平成10年代にやっと製品を市場に登場させました。しかし、ほとんど同時に韓国、中国の企業が追い付いてきたことを非常に不思議に感じました。その背景には①デジタル化による回路設計の容易さや映像品質の差異が消滅、②電子部品・部材メーカーや生産設備メーカーの技術力・供給能力の向上もあるでしょうが、日本のテレビメーカーの技術、技術を持った人(リタイヤした人など)の流出が大きな影響を及ぼしたと感じます。基本的には合法的であったのでしょうが、日本企業の昭和時代の「必死に真似る」やり方、言葉を替えると日本型ビジネスモデルが東アジアにスピードアップして狡猾かし広がったのでしょう。また、一部は産業スパイ的な非合法なこともあったのかも知れません。否、あったであろうと推測します。最近の種苗法改正論争を思い出すと、日本の産業界は知的財産権を「盗みやすい」社会であるのかも知れません。
一方、過去40年間くらいの米国のエレクトロにクス産業を振り返ると、将来性や収益性が低い事業から、情報通信とそのサービス産業へシフトし、GAFAのような巨大企業を生み出し、産学連携や活発なベンチャーキャピタルの恩恵もあり、新たな産業やベンチャー企業がタケノコのように成長したように映ります。
結局、日本の産業界を強く引っ張るには、知的財産をいかに増やしながら保護し、漏洩しないよう注意しながら活用することが国策になったと考えます。
知的財産権の概要
知的財産権とは①知的創造物についての権利と、②営業標識についての権利に大別されます。
①知的創造物についての権利と(法律名):特許権(特許法)、実用新案権(実用新案法)、意匠権(意匠法)、著作権(著作権法)、回路配置利用権(割愛)、育成者権(種苗法)、営業秘密(不正競争防止法)
②営業標識についての権利と(法律名):商標権(商標法)、商号(商法・会社法)、商品等表示・商品形態(不正競争防止法)
産業財産権(工業所有権)という言葉もあり、これは知的財産権の一部で、特許権、実用新案権、意匠権、商標権の4つの総称です。新しい技術、新しいデザインやネーミング・マークなどについて権利者に独占権を与え、模倣防止のために保護することと共に、健全な産業の発展に寄与することを目的にしています。
それぞれの権利(法律)について順次、ブログを書いていきます。
知的財産権は多面的に活用すると効果が高い
産業上の発明は特許法、考案(アイデア)は実用新案法、商品デザインは意匠法、商品に付ける標章(マーク)は商標法により保護されるますが、これを多面的に活用することがより効果が高いと考えられています。たとえば、従来より滑りにくい新しいタイヤを開発できた場合、技術的思想がある部分は特許権または実用新案権、タイヤの溝の形状に特徴があれば意匠法権、新タイヤの商品名やロゴについては商標権により保護をする、または保護をする姿勢を示すことが、競合他社との差別化、消費者に対する説得力が生まれてくるという意味です。
中小企業にとっての知的財産管理とは
知的財産管理が重要なのは大企業だけではありません。中小企業だからこそ様々な知的財産権を保有し、それを活用することが企業経営にとって重要なな経営資源の一つになります。その理由を箇条書きすると
(1)知的財産は経済的価値があれば、貸借対照表の無形資産です。 事業譲渡や企業買収の時に、ブランド価値などと共に「のれん」として計上される企業や事業の資産になります。ブランド価値は事業年数や宣伝広告費累計にある程度比例すると思いますが、知的財産は権利ですので、権利の売買も可能です。
(2)特許権、実用新案権、意匠権、商標権などは登録制であり、登録費用や維持費用が掛かりますが、知的財産権を意識し、それを守ろうとする経営姿勢や企業文化が、その企業の信用を高め、情報漏洩の防止にも繋がると考えられます。
(3)各種補助金申請や融資申請の際に、知的財産権を持っていること、知的財産権を増やしていく計画を経営方針や経営計画に入れ込むことは、審査のプラス加点になるでしょう。 国・経産省の施策に沿った模範生になるということです。
(4)産業財産権の一つ、実用新案権は特許=発明とまではいえないちょっとした考案(アイデア)も登録可能で、実は無審査なんです。申請書を作るのは面倒ですが、出願日から10年間保護される権利として公表することができます。考案した社員のモチベーションにもなるでしょう。
(5)発明である特許権を獲得できるのであれば、競争力が高い、新規参入障壁づくり、競合他社と比べて利益率が高いなどとも考えられますが(経産省側の資料に多いパターン)、まず上記(1)~(4)のメリットを考えてみるのが現実的ではないでしょうか。