令和2年(2020年) 中小企業診断士2次試験 事例Ⅳの考察

事例Ⅳは、うっかりミスしやすく一つ間違えると五月雨式に得点できなくなる、時間が足りなくなる、80分4本勝負の最後で疲れ果てているなどの理由で、苦手です。昨年は、一問はまったく何も書けず白紙でしたが、ある程度感触があった事例ⅠからⅢがB評価で、ⅣだけA評価の結果に唖然としました。どの事例も相対評価されるので、難問が多かった事例Ⅳは点数のかさ上げがあったのかも知れません。

ということで今年も事例Ⅳは真面目に勉強し、勉強時間は事例ⅠからⅢを合計と同等に配分しました。

ここでは、明日12月20日の口述試験で、出題される可能性が低い事例Ⅳの個人的考察を書きます。口述試験で計算問題はあり得ないので、事例Ⅳ全体のSWOT、問題と解決策、こんな説明を求められるかなを想定しています。

 

D社の概要

40年前に個人事業として創業した戸建住宅メーカー。資本金3,000万円、従業員106名。

注文住宅の企画、設計、販売で、顧客志向を徹底し、他社よりも多頻度、長期間のアフターサービスの提供が特徴。顧客を大切にして、地域に根ざした企業であることが強みで、商圏は本社がある県と周辺の3県に限定。 過去40年間で2,000棟の販売実績【ちょっと少ない感じがする】 丁寧な顧客対応による費用負担が重く、顧客対応の適正水準が課題【要は、リフォーム需要など継続的な受注に繋げられないと販管費の固定費が重くなる意味でしょう】

D社は住だけでなく、食についても飲食業を展開しており、6年前から懐石料理店(2)、和食店(1+今後もう1)、ステーキ店(1)とファミリーレストラン(1)は営業利益マイナスなので業態転換か即時閉店の決断が必要。【地元貢献で飲食業を行うにしても、多種の飲食業に広げ過ぎたということか】

二つの事業の担当取締役は、各事業のROI評価で、投下資本は期末資産金額で計算するとのこと。

飲食店出店のための土地のうち、具体的出店計画がないところは駐車場として賃貸。【和食店のもう1店舗だけでなく複数の土地を既に購入しており、駐車場という生産性の低い事業もやってしまっているという感じ。 駐車場を借りる人は多数で、主に1年単位の賃貸借契約だろうから、出店計画ができたからといってすぐに契約解除はできないのでしょう。簡単に言ってもったいない資産の使い方をしていると感じます。または戸建分譲住宅なのか販売用不動産が12億円もあり、まとまった土地を購入できるチャンスを捕まえ、本業の戸建てで販売(ばらばらと一回切り)するか、飲食業で継続的収益を上げるかを天秤にかけるケースもあるのではないかと推測。飲食業の成功の鍵は、味や接客も重要だけど、まず立地だから、出店計画がないのに土地だけ購入し、駐車場にしておくというストーリーには違和感を感じる】

リフォーム事業は高齢化により依頼が増えており、もっと拡充させたいというのがD社長の考え。【ほとんどすべての住宅メーカーは同じ考えだと思うし、リフォーム事業は一件当たりの金額は低い(戸建てに比べ)のに、競争は激化しているのになあと感じる】

 

第1問

設問1は、定番の優れている点と劣っている点の他社との財務分析: 与件文を読みながら、長期安全性は低いだろうと察しがつきます。また販管費が高く借入が多いだろうから金利負担も重いのであれば、収益性は営業利益率ではなく経常利益率になるとわかります。 そして、残りの効率性だけは他社より優れた数字にしているのだと思ってP/L、B/Sを見たら、計算するまでもなくその通りでした。 計算結果の数値は割愛します。【同じ事業をやっているのに同業他社は売上総利益率は低いのに、借入は少なく、利益剰余金がめっちゃ多く、安定した企業。こんな企業と比較する意味があるのか、顧客志向は徹底しない方が良いのではと疑問が湧く】

設問2は、ほぼ上記と同じで、文字数に注意するだけです。地域に根差し評判が高いので効率性は高いが、顧客対応費用や借入金の金利負担により経常利益率が低く、駐車場にしている不動産と借入が多いため長期的安全性が低い。など、どう書いても加点される設問でしょう。

 

第2問

赤字のステーキ店について

設問1は、変動費率が売上高によって変わる変化球型のBEP売上高計算。

設問2は、①宣伝広告を行い続ける、②カジュアルな店へ業態変換、③即時閉店の選択のNPVを計算させる設問で、ぱっと見で心が折れそうな文字数(条件いっぱい)です。(a)は見事に計算ミスをしてしまい、(b)の計算と(c)の判断だけ正解。【広告宣伝を続け、効果が出る確率70%の判断だが、私はこの判断に反対する。毎年5百万円の広告宣伝費で、効果が出る出ないでCFに40百万円の差が出る?ということが信じられない。 当期は広告宣伝しなくて4百万円の赤字なのか?訳がわからない設定だと感じた。70%の確立で効果が出るだろう・出て欲しいのレベルでは判断すべきではないと思う。担当者は70%もの高い確率ですよと主張してくるでしょうが、それを90%以上に引き上げる「石橋をたたいて渡る」が必要だと思います。主業の住に関係なく、食の事業で地元貢献を目指すとしても、和食・懐石料理に特化すれば良いでしょう。試験の解答には関係ありませんが】

 

第3問

第3問は、リフォーム事業の外注先、E社の買収検討 資産550百万円、負債350百万円、当期純損失16百万円【売上高がわからないけど、資産の3%もの損失を1年間で出した企業を買収するの?って印象】

設問1は、資産の時価500百万円、50百万円を新たに銀行借入して買収(買収価格が50百万円と明記されていない)する場合の差額をどう処理するか? 純資産額150百万円を50百万円を支払うので、差額100百万円は正か負ののれん、どっちかな?という問題です。買収後、D社の負債は50百万円増え、資産も50百万円増えるだけ。 差額の100百万円の資産を打ち消す負ののれんを計上するのだろうと考えました。一般的なM&Aでは、交渉の結果、資産価値以上の買収価格でも買収側は買いたいのだから、即ち正ののれんになるので、こういうケースはちょっと誤魔化されそうになりました。

1億円も下げて買収に応じるE社って変だと思います。売りたがって早く逃げたいということですね。

設問2は、買収前に相談を受けた場合、どんな助言をするか?

直感的にやめた方が良いと思い、理由を考えました。既に短期借入1249百万円、長期借入561百万円もしているのに、改めて借入金を増やし赤字の会社を買収する必要性があるのか?1億円も下げて買って欲しいというには何か理由があると考えられる。簿外債務が膨らんでいるのかも? DDをしっかりやってという助言が良いのかも知れませんが、そんなことに費用と時間をかけるのか疑問。事業計画を立て収益改善に取り組むべきという解答もあり得ますが、そんなことを助言するコンサルは信用しない方が良いでしょう。 また、負ののれんだと税金も掛かるだろうし、リフォームの外注先なんていくらでもあるでしょう。E社にリフォーム事業としてのノウハウか何か強みがない限り、労力かけて借金までして赤字企業を買収する必要性がまったく感じられない。そもそも顧客志向のD社がリフォーム事業に注力するのなら、何が他社より優れているか、提案力、施工技術、長年のつきあいの信用などの強みを磨くべきで、外注先の力に頼るべきではないと考えました。この設問については、優等生的な解答ではなく、自分のカンとポリシーで文字を埋めた感じです。

 

第4問

D社内のセグメント別売上高、利益、資産

設問1: ROIの計算だが、一般にROIは投資に対する利益増分で、特定した投資(宣伝や設備)に対する直接的効果を測ったり、企業全体の株式の相対的な割安・割高感を示す指標だと理解していました。ただ、ここは与件文の記述に素直に従い、単純に利益÷資産と単純に計算しました。期末資産合計を分母にするのであれば、資産を減らせばROIが上がることになり、これをROIと呼んでいいのかと疑問を感じました。期末だけ棚卸資産や固定資産を減らすといろいろ弊害が起きそうな気がします。

設問2:売上高92百万円増えても利益がわからないこの設問はチンプンカンプンでした。 また400百万円も借り入れて投資して、金利16百万円も増えるし、原価償却費は年80百万円⇒費用だけで売上高を超えてしまう。今も解答がわかりません。これってボツ問ではないかな?

設問3:資本コストを考慮していないからすぐに借入をする弊害

    利益は貢献利益から資本コストを差し引き、かつ定性評価も加えるべき

 変な問題だと思います。

最後に

住宅メーカーとはいかにクレームを抑えるかの事業だと思います。 普通の人は一生に一度の住宅購買で、何十年もローンを組みます。設計上の問題、施行上の問題、設備の使い勝手の問題など、イメージと違うことはしばしば起きるものですが、一度建ててしまうと簡単には変更できません。99%満足しても1%の問題が大きなクレームになってしまいます。そして、住宅メーカーのアフターサービスといっても、10年や20年経つと、担当者が何度も替わり、役にたたない挨拶程度にしか感じません。だから、D社のように顧客を大切にする企業という評判は大きな資産であり、顧客対応のための費用負担が重いことから逃げると一気に評判を落とし、存亡の危機になってしまう怖れがあると思います。 

じゃあ、どうすれば良いのか? D社長へ助言するとすれば、たとえば、住宅関連商品・家具・DIY商品・生活用品などの通信販売・オンライン販売、DIY体験会、介護事業とリフォーム事業の組み合わせ、食事や食材の宅配業、要らなくなった家具や電気製品の回収事業、生活上のお困り相談、一人住まい老人のケア(後見制度、遺言、相続)など、いろいろアイデアはあると思いますが、どこの住宅メーカーもやっていないようですね。もっと考えると、住宅メーカーには木材などの資材メーカー系が多く、親会社からの資材の販売手段という位置づけになりがち。100年住む家などのコンセプトは宣伝文句であって、本音は100年も維持されたら自分の顧客ではなくなる、できれば20年ごとに建て替えて欲しいでしょう。だから、わざわざ資材とは無関係の事業にまで手を広げてリスクを負いたくないと考えてしまうと想像します。 そこが、D社の差別化集中できるブルーオーシャンではないかと考えます。