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東京都の事業者支援①【東京都創業助成金】

東京都の事業者支援①【東京都創業助成金】

数々の国の補助金(持続化補助金、ものづくり補助金、事業再構築補助金など)や、千葉県中心に地方自治体による補助金・助成金の申請サポートを行ってきましたが、日本最大の地方自治体である東京都の事業者支援の補助金・助成金は規模が大きく、種類も豊富です。(市区町村向け、商工会・商工会議所向けの施策も多い)

 

地方自治体による事業者支援①~⑥に続き、東京都の事業者支援策をいくつかご紹介します。まずは、東京都創業助成金です。

 

 

東京都創業助成金

近年は年2回の公募がある創業に関する助成金です。都内創業予定者又は創業して5年未満の中小企業者等を対象として、最大300万円の補助率2/3です。 次回は、令和5年10月2日(月)~令和5年10月11日の非常に短い申請期間です。 年間で1000件を超す申請がありますが、採択者数は150件程度と、採択率10%台の非常に狭き門です。

前回、令和5年6月公募で支援した事業者さんが、今月(9月)見事採択されたので、この助成金について私見(■印)を入れて簡単にご紹介します。

 

創業助成金の概要

 

助成対象者: 都内での創業を具体的に計画している個人又は創業後5年未満の中小企業者等のうち、一定の要件を満たす方

助成対象期間: 交付決定日から6か月以上最長2年

助成対象経費: 賃借料、広告費、器具備品購入費、産業財産権出願・導入費、専門家指導費、従業員人件費

助成限度額: 300万円(下限100万円)

助成率: 3分の2以内

■これから創業する方だけでなく、創業後5年未満と中小企業者と、国の持続化補助金の創業枠と比べて対象範囲が広く、上限300万円と規模も大きいです。

■また、事業所の賃借料や従業員人件費まで対象経費にできることは、国の補助金にはあり得ない東京都独自です。

 

申請要件

申請要件は4つあり、すべて満たさないと申請ができません。それぞれ細かい説明が公募要領に載っているので、ここでは分かりやすくざっくり説明します。

申請要件1: 都内で創業予定、または事業をはじめてから5年未満の中小企業者。ただし、個人事業主・法人代表者が通算5年以上の経営経験がある場合やみなし大企業は申請することができません。

 

申請要件2:指定された19の創業支援事業のいずれかを利用し、所定の要件を満たす方。たとえば、①TOKYO創業ステーションの事業計画書策定支援の終了者、②インキュベーション施設運営計画認定事業の認定施設の入居者、③東京都及び都内区市町村が行う創業を対象とする制度融資利用者、④都内区市町村で認定特定創業支援等事業(産業競争力強化法)による支援を受けた方などです。

 

申請要件3: 細かく12項目に該当すること。大雑把に言って、助成事業対象期間内に事業を実施できる(創業できる)上に、助成対象期間終了年度の翌年度から5年以上は事業を活動を継続すること。

 

申請要件4: 細かく4項目に該当すること。助成対象期間終了年度の翌年度から5年以上は、都内に主たる事業所等があり、都民税を納税していること

 

■この申請要件は公募要領の中、12ページ分も細かい説明があり、読むのが大変です。様々な事業者があるので、創業から数年間の楽しくも忙しく不安定な期間を東京都の事業者としてやり抜くということが前提のようです。 しかし、経営資源(ヒト、モノ、カネ)が少ない中小企業であり、個人的な出来事や、資金繰り、市場環境の変化など自由経済社会の中の不安定要素は無数にあり、申請要件3と4は、「そうはうまくはいかない」ケースはどうなるのかと疑問が沸きます。 3と4の申請要件が満たされる可能性が高い事業計画を持つ事業者に絞るということなのでしょう。

 

対象経費

賃借料: 助成対象期間内の事務所・店舗・駐車場等の不動産賃借料や共益費、事業で使用する器具備品等のリース・レンタル料。レンタルオフィスやシェアオフィス、HPなどのためのレンタルサーバーも対象。

広告費: 助成期間中の、広告掲載、チラシ・パンフレット作成・配布、展示会出展、HP作成、インターネット広告、試作品作成・配布などの経費など。 チラシ・パンフレット・試作品などを配布しても助成期間終了時に残ったものは対象外。

 

器具備品購入費:事業で使用する設備類のほかに、机、パソコン、コピー機も対象。ただし、中古品、消耗品、文房具、自動車など対象外も多くあり。

 

産業財産権出願・導入費:特許権、実用新案権、意匠権、商標権などの出願費用や、他者からの譲渡・実施許諾に要する経費

 

専門家指導費: 事業遂行に必要な外部専門家による助言・指導の経費

 

従業員人件費:助成対象期間内の正社員だけでなくパート・アルバイト含む給与・賃金。

 

■賃借料、机・パソコン、人件費まで対象となるのか素晴らしい。創業時は、固定費をいかに下げて損益分岐点売上高(固定費÷(1-変動費))を下げられるかがとても重要です。かといって、必要最低限の設備や事務所費など固定費が無ければ何も始まりません。本助成金の対象経費は、創業者にやる気を起こさせると思います。

 

 

申請手続

申請書類(部数指定有)の郵送、または電子申請ですが、電子申請が簡単です。

必要書類は、①創業助成事業申請前確認書、②創業助成事業申請書、③直近2期分までの確定申告書等(創業前ならばありません)、④履歴事項全部証明書・開業届、⑤申請要件2の確認書類

■公募要領の中に数ページにもわたり書類サンプルがあるので、どんな書類が必要なのか確認しやすいと思います。

 

審査方法

(1)審査は、国の補助金同様に、申請要件や提出書類などが合っているかの形式審査と、創業助成事業申請書内の「事業計画書」「資金繰り表や資金計画など」の中身の書類審査になります。 「事業計画書」のフォーマットには細かくタイトルが指定されていて、そのタイトル毎に審査ポイントがあり、当職の考えを加えた形で下記します。

 

製品・商品・サービス内容: 具体的な内容になっているか、適切な価格設定か、実施時期や場所が明確になっているか。いわゆる事業領域(ビジネスドメイン: 誰に何をどうやって提供するのか)が明確で合理性があるか、広がり過ぎ(可能性低い)ていないかなどがポイントでしょう。

申請者について:過去の経験・実績、技術力・スキル・ノウハウ、創業に至った経緯・理由など、これは次のSWOT分析のSに繋がる形が良いでしょう。

問題意識・潜在力: 創業によってどんなことが社会的課題が解決されるか(ちょっと難しいタイトルですが、要はどんな価値を提供し、社会貢献になるかなど)、経営理念・ビジョンは明確か、SWOT分析が合理的(内部環境・外部環境の把握)に言葉になり、経営戦略の核になるかでしょう。

対象市場: ターゲットマーケティングやセグメントマーケティングのことでしょう。その対象市場をどれくらい把握しているか、5Forces分析、競合他社があればその差別化や優位性。

実現性: 収益獲得の仕組み(ヒト・組織・外注活用から、資金繰り・キャッシュフロー)、ビジネスモデルの実現性の高さ、調達リソースや販売戦略の妥当性、そして想定リスクとその回避方法

有効な助成金になるか: 創業時の事業推進、スピードアップの為に、その対象経費が必要で、有効なのか、経済性や妥当性があるか。

スケジュールや経営見通し: 6か月から2年間の助成事業のスケジュール(月単位や四半期単位)は表で示した方が分かりやすいでしょう。 そのスケジュールの中で実施する施策に妥当性があり、対象経費発生を示します。また、経営見通しとしては、5年間程度の収支計画(売上(売上根拠)、原価、経費、営業利益、付加価値額など)に合理的な数字に落としていくことが重要でしょう。

資金調達の妥当性: 助成金は後払いなので、その間の資金調達。そして、助成金交付がなくても事業継続が可能な収支計画か

 

■事業者は色々考え、夢を持って創業します。その考えや夢、事業者の特徴などからSWOT分析・VRIO分析(強み分析)をしっかり行い、市場ニーズを調べたり、仮説を立てたりしながら、経営戦略を練り、マーケティング戦略を立てながら、机上の空論にならないよう、想定リスクと回避方法の検討も重要だと思います。

要は事業計画全体に、合理性や妥当性があり、実現性が高いと、読む人(審査員)に伝わる事業計画にすることが肝要です。グラフ、図、写真などを入れることが効果的です。だらだらと箇条書きの文字だらけで、読む人の読解力に頼ることは避けた方が良く、どんな審査員(当職のような中小企業診断士が多いが、知識・経験にバラツキがあると推測)でも上記ポイントが理解・納得・信じることができることを目指しましょう。

■「資金繰り表や資金計画など」は、金融機関への融資申請の記載事項に類似しています。上記「事業計画」内収支計画と数字が違わないように注意するくらいです。

 

 (2)申請締め切りから約2か月後に書類審査結果の連絡があり、パスしていればその翌月上旬に面接があります。この面接は申請者一人に対し審査員側は4人程度と、最終採用面接のような形で、30分程度の質疑応答です。質問内容は、基本的に事業計画の内容の確認、掘り下げた質問もかなりあります。

■審査ポイントをおさえながら事業計画書を読み返し、自信を持って落ち着いて面接に臨むことがポイントでしょう。

 

(3)上記面接後、更に2か月、申請締め切りから4か月半後にやっと採択が決定されます。採択者にはすぐに説明会があるので、採択後の手続や実績報告などを説明してくれるでしょう。ただし、採択されたから即助成金が支払われることはありません。これは国の補助金も同じで、下記の実績報告が必要であり、助成金支払はその後です。

 

実績報告から助成金の支払い

助成事業の期間は6か月以上、最長2年の間で任意に決めることができ、そのスケジュールを事業計画書で示していますが、助成事業に取り掛かってから事業環境の変化などによって大きな変更(経費変更など)があれば変更申請を行い承認を受ける必要があります。

 

実績報告書も所定のフォーマットがあり、事業計画通りに進んだのか、その効果などを簡潔に書き込みます。そして対象経費についてはエビデンス(見積書、契約書、納品書・請求書、支払証拠(銀行通帳など))を提出しなければなりません。 対象経費によって添付する書類の種類が変わるので、事務局に確認を取りながら要領良く纏めてください。 この書類不備が多く、なかなかお金が支払われないケースは多々起こります。

 

尚、この東京都創業助成金には6か月以降に中間報告を行い、中間払いの制度もあります。

 

■何かわからないことや気になったことは事務局に電話して確認しながら進める事が重要です。 そして、中間報告・中間払いの制度は国の補助金にはほとんどない制度です。助成期間が1年から2年の場合は助かりますね。

 

備考

公募要領はページ数が多いですが、丁寧だと思います。対象経費の種類が広く、且つ中間払いの制度もあるので、創業者にとってありがたい創業助成金だと感じます。 当職の知る限り、このレベル・規模の補助金は他の地方自治体にはありません。 さすが東京都です。

 

ただし、採択率が10%台と低過ぎるので、かなり狭き門です。また申請要件2の書類を取得するだけでも2か月程度かかると思いますので、申請準備から採択決定まで、半年以上と長過ぎるので、覚悟して取り組む必要があります。

 

もし、東京都創業助成金にチャレンジしてみたい方は、気軽にお問い合わせください。