令和2年度(2020年度) 中小企業診断士2次試験 事例Ⅰの考察

令和2年中小企業診断士2次試験 事例Ⅰ

令和2年10月25日、大阪で2次試験を受験しました。昨年、真夏の8月、寒過ぎるエアコンに耐えながら、やっと1次試験を突破したマイドームおおさかが会場でした。 コロナ禍の中、体温測定をしてから会場に入ると、3人掛け長テーブルに1人の割合で、密を避け、広々とした会場は受験生でいっぱい。ここまで来て普通の風邪などで37度5分以上の熱があっで受験できない人がいたらかわいそうですね。ただ、1次試験合格者は、通常その年と翌年の2度、2次試験を受けるチャンスがありますが、今年分はスキップして来年も試験を受けれるそうです。さて、事例Ⅰから振り返ってみます。【 】内は与件文などには書いてませんが、私の印象や考えを記しています。

事例Ⅰ A社の概要

わが国を代表する観光地であり温泉地の、江戸時代から続く老舗蔵元。資本金2,000万円、売上5億円、内、酒造事業は2億円、酒造以外のレストランと土産物店の売上が3億円と多角化経営をしている。現在の社長は40代前半と若く、従業員40名(正規社員20人)。先代社長の2000年代に日本酒の国内消費量が大幅に減少し、A社の売上も半分近くに落ち込み、後継者がいないこともあり廃業を考えた。【日本酒の国内消費は過去40年間、一本調子で右肩下がりですが、急に平均50%も落ちたとは信じられないので、このA社自体に何らかの問題があったのではないかと推測】 結局、地元の有力者が現れ、友好的買収によって、当時金融機関に勤めていた40代の孫を呼び寄せA社社長にしたというストーリー。

この地元の有力者という人【年齢は昭和一桁の90歳台の印象】がやり手で、飲食業を皮切りに次々と店舗開拓に成功【様々な飲食業、小売業を立ち上げた印象】させ、30年前には地元の旅館を買収して娘さんを女将にして高級旅館に蘇らせたとのこと。【この娘さんとA社長の孫は、それぞれその任された事業の未経験者なのに、強引にトップに据えて、経営者に育てながら、直接経営に口を出して事業再建に成功させた印象】なぜ、この老舗酒蔵を買収したかについては、インバウンドブーム【2次試験出題者はこれが好きなんですね】、200年の老舗ブランド、そして地域の活性化【これも好きなテーマですね】の三つ。

この有力者は、先代社長を経営顧問【友好的買収の手段の一つ】とし、杜氏とベテラン蔵人たちからA社長がOJTで酒造りを学ぶ環境をつくり、同時に新規事業開発に取り組むように命じたのでしょう。【幼少時から祖父の跡を継ぐ運命のA社長は、素直で優秀な人柄を感じた。もしかして旅館の女将の息子かな?】新規事業開発のキーワードだけ書きだすと、敷地内リニューアル、土産物店に改装、地元高級食材を使った高級レストランの新築、社員の休憩所も整備、さらに日本酒バー。異なる事業を統括する体制づくり、酒造りはベテラン女性事務員【この女性が酒造り事業の商売を一番知っている、適材適所の実践】を抜擢、新規事業には30-40台の経験者を正規社員【モチベーション向上】として採用し、レストランや土産物店の現場には地元の学生や主婦を非正規社員として採用。【地元という単語が3回目出てきた】 有力者が持つ旅館などのグループ会社からの営業支援【これは過去問にはない新しいパターン】、インバウンドの追い風、外国人数人も採用...といろんなキーワードがたっぷり出てきて、知識の引き出しが全開状況になってしまいました。【インバウンドブーム前兆期、日本の文化や伝統に憧れる来訪者にとって老舗ブランドは魅力的という文章には無理やり、こじつけのような違和感を感じた。】

ここから参謀の執行役員と総務部門責任者の若い女性の抜擢が登場します。【2人目の女性で、前出のベテラン女性事務員との関係性があると推測】 執行役員は直販方式【これはいつものパターン】を導入し成功させ、杜氏や蔵人、即ちベテラン社員との橋渡し役【クッション役】というのが特徴。若い女性は情報システム化を進めた実績を買ったとのこと。【この辺は設問に繋がる感じ】

最後に課題として、年功序列型賃金、将来の企業グループ全体のバランスを考えた人事制度と、ここも設問に繋がるような与件文になっている。

 

第1問

今年の事例Ⅰの特徴は、A社のことではなく地元有力者に関する設問からスタートしています。

設問1:A社長の経営ビジョンを推測させる設問ですが、こんなに地元というキーワードを多用したので、「地元地域の活性化」は確実、経営ビジョンとしては100文字は多い気がするので、どうやって活性化するか、新規事業の立ち上げ、地元企業を買収し再建、地元人材の活用などをくっつけて解答を組立て、おまけで、わが国を代表する地域から、グローバルに有名な地域を目指すというようなビジョンをくっつけたと覚えています。【そうしないと100文字が埋まらない感じがしたし、ちょっと飛躍したビジョン=夢にした方が出題者の意図に沿う気がした】

設問2:先代経営者との経営顧問契約や、ベテラン従業員の引取り理由:これはまったく悩むことなくすらすたと、①ノウハウの継承、②10人のベテラン社員のモチベーション向上、③酒造りは素人のA社長へのOJTの三つを挙げましたが、どんな表現方法をしたのか思い出せません。200年も続いた酒蔵を買収されて、先代社長やベテラン社員の気持ちに触れるような表現にできていれば良いのですが。 【今考えると、先代社長時代の問題点は、酒造りだけに固執していたことと、組織・人事に何か問題があってそれを有力者が見抜いて改革をやった、そこが出題者の意図だったのではないかと感じます】

 

第2問

若い女性社員を評価した情報システム化の手順: まず分析、マニュアル化など思い浮かべましたが、何の情報システム化与件文にはありません。「ベテラン女性事務員から知識と経験を2年で受け継ぐ」ということので、【たった2年で受け継げるレベル・範囲のこと、営業系の受発注やCRM、生産系、会計系など、どれも2年程度で把握・業務分析しシステム要件を纏めるのは非現実的、またほとんどの管理システムはパッケージ化されているので、ただ標準品を導入しただけでもないだろう】と考えました。 だから、若い女性社員は総務担当責任者なので、総務・人事系の...人事管理DBだなってカンだけで解答を組み立てたので、解答がかなりマニアックになって得点につながらない可能性があります。 たぶん書いたのは、①属人的な暗黙知を形式化、②業務分析し情報システムの要件定義、③DB化はグループ企業のDBとの整合性を考慮、④外部へシステム構築を委任というような手順を書いたつもりです。課題の企業グループ全体の人事制度もあり、将来の業績評価、コンピテンシー評価、CDPを導入する上でも人事DBの従業員番号、経歴、評価指標、評価者など、後から作り直すのは大変だからそんなイメージを持って解答したつもりです。多角化し業種の違う従業員のいる企業では、人事評価の公平さを維持すること、過去の評価実績やその評価をした上司の傾向などをDB化することが非常に難しいという想いを持って解答したつもりです。

【後で考えると、人事管理DBを構築するだけで足りず、マニュアル化や浸透させるための教育も必要だったのでしょう。】

 

第3問

直販方式を取り入れた執行役員が部下の営業担当者に対し、どのような能力を伸ばすことを求めたか?

直販と見ただけで、顧客ニーズの収集、情報収集はすぐに浮かびましたが、加えて、10名のベテラン社員とのコミュニケーション能力、ニーズ収集から新商品開発アイデアを出すことを書いたと覚えています。これは大外れはしない問題ですね、たぶん。【後から気づいたのですが、直販とは飲食店や土産屋さん向けだと考えます。だとすると従来の酒類販売業者とそこへの酒類卸業者とのコンフリクトが気になります。何件か酒類関連の免許を扱い、この業界の免許・流通の難しさを知っていので単純な中抜きではないでしょう。 それまで流通業者がターゲットにしていなかった飲食店やお土産屋さんを一件ずつ開拓しながら、流通業者へも仁義を切って、配慮をしなければならないという視点のコミュニケーション能力、交渉力、調整力が必要なのだろうと推測します】

第4問

企業グループ総帥となるA社長が、グループ全体の人事制度を確立するための留意点

これは知識だけで解答できる設問のように感じましたが、何か一つ、二つに絞るのは危険なので、①成果主義、②コンピテンシー評価やCDP、③グループ会社内の人事交流、ジョブローテーション、④外国人や女性の登用の促進など4つくらい書いた筈です。

【後で気づいたのは、上記の単語を並べただけでは留意点になっていないこと。人事評価ならば、グループ間で評価の透明性、公正性に留意(評価基準の明確化、評価者教育など)し、コンピテンシー評価やCDPも段階的に導入すること。 第2問の人事管理DB(だろう)を活用し、グループ内人事交流・ジョブローテーションを行い、非正規社員の正規社員への登用や役員への抜擢などにより従業員全体のモチベーション向上に繋げるなどの解答の方が良かったと思います。】

最後に

昨年の事例Ⅰでは、めっちゃ緊張した上に、問題用紙の薄さにびっくりし、赤や青のマーカーが裏まで滲んでしまい、また消しゴムで消すと黒ずんでしまい、かなり焦ったのですが、今年は落ち着いてできたと思います。出題者の意図が見えやすいので、何か落とし穴があるのではないかと考えたり、社員を大切にするところをどこに使うべきか【直接的に使える設問がなかった】などと枝葉のところに気を使った事例Ⅰでした。

また、後から気づいたことがいっぱいあります。

・新築したレストランの2階は団体客用ということは、A社は観光会社、地元の観光協会とも連携して「日帰り温泉+食事つき」パックなどを積極的に営業していたのでしょう。

・蔵人10名は職人気質でしょうが、全員高齢になっている筈。その技術・ノウハウの継承、または高齢者雇用の機会とモチベーション維持も一つのテーマになっていたかも知れません。

・買収前のA社の経営不振は、酒造りにこだわり、旧来のビジネスモデルを変えられなかったからだと推測すると、買収後は直販や日本酒バーで得たニーズを商品開発に反映したのではないかという視点も有効だったでしょう。調べてみると確かに日本酒は過去20年間でも、その前の20年間同様に需要が徐々に減っています(40年間で4分の1、20年間で2分の1)が、特定名称酒(吟醸、本醸造など)は増えています。そういえば、地酒ブームもあったし、近年は大手酒造メーカーも吟醸酒の生産を増やしたようです。 どうでもいいことですが、大吟醸になるとお米の芯部分まで削るので生産量が激減するんですね。 まあ、簡単に考えるとワイングラスが合う日本酒、フルーテイさや日本酒臭さが少ない日本酒など

・更に考えると酒造事業の2億円って一升瓶換算で、単価1000円とする、年間20万本。地元流通と新規開拓の直販でいっぱいいっぱいではないのか? 獺祭のような大きなプロモーションを行えば、全国区の地酒ブランドになる可能性はあるけれど、そのためには設備投資と蔵人の増加が必要。または、それほど美味い日本酒ではないのかも知れない【情報無し】。だとすると、やはり直販比率を上げ、商品開発に工夫し、希少性を訴えて利益率向上がA社の酒造事業には向いているような気がします。

まったく関係ない話ですが、酒類製造や販売・卸には免許が必要で、都道府県別に税務署が出す珍しい許認可です。法的根拠は酒税法なので、徴税手段ということです。未成年の飲酒を防ぐ目的も強く、定期的に研修を受けなければならない厄介な免許です。またインターネットや通販で都道府県をまたがる販売には一般ではない免許が必要。この免許のもう一つの特徴は、登記簿の土地に許可を与える形式を取っており、古来の酒造りが神社との関連性(不浄の考え)の名残を感じさせます。そして酒造業者の土地から外に出た時(実生産量ではなく出荷量)に酒税が課せられることになるので、A社のような敷地内の日本酒バーでティスティング的に消費する分は酒税がかからないのではないか、その分利益率が高いのかと考えてしまいました。 一度、税務署に聞いてみます。

 

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